或るとき尊師は、コーサラ国のうち雪山地方において、森の庵にとどまっておられた。

さて尊師がひとり静かに瞑想しておられるときに、心にこのような考えが起こった。

ーーー「殺すことなく、殺さしめることなく、勝つことなく、勝たしめることなく、悲しむことなく、悲しませることなく、法によって統治をなすことができるであろうか？」

そのとき悪魔・悪しき者は、尊師が心に考えられたことを知り、尊師に近づいた。近づいてから、尊師にこのように言った。ーーーー「尊いお方。尊師はみずから統治をなさい。幸せな方（ブッダ）は、殺すことなく、殺さしめることなく、勝つことなく、勝たしめることなく、悲しむことなく、悲しませることなく、法によって統治をなさい」と。

「悪しき者よ。そなたは、何を見てわたしにこのように言うのか？ーーー〈尊師はみずから統治をなさい。幸せな方（ブッダ）は、殺すことなく、殺さしめることなく、勝つことなく、勝たしめることなく、悲しむことなく、悲しませることなく、法によって統治をなさい。〉」と。

「尊いお方！尊師は、四つの不思議な霊力（四神足）を修し、大いに修し、〔軛（くびき）を結びつけられた〕車のように修し、家の礎石のようにしっかりと堅固にし、実行し、完全に積み重ね、みごとになしとげた。尊師がもしも、山の王・雪山を黄金にしようと望み、そのように決意されるのならば、山は黄金となるであろう。」

〔尊師いわく、ーーー〕ーーー「黄金や銀の山があったとしても、またそれを二倍にしても、それだけでは、一人の人を満足させることはできない。このことを知って、平らかな心で行うべし。

苦しみと苦しみの起こるもとを見た人は、どうして欲情に傾くであろうか。世間における制約は束縛であると知って、人はそれを制しみちびくために修学すべし。」

そこで悪魔・悪しき者は、「尊師はわたしのことを知っておられるのだ。幸せな方はわたしのことを知っておられるのだ」と気づいて、打ち萎れ、憂いに沈み、その場で消え失せた。

・・・・・・ブッダ